社員は、経営が掲げた理念を読まない。正確に言えば、読んでも行動を変えない。
しかし人事異動の発表は、全員が読む。誰が昇進し誰が抜擢され誰が外れたのか。
組織はそこから、この会社で何が報われるのかを学習していきます。
掲示された理念より、一枚の辞令のほうが情報量が多い。
制度の文言ではなく、運用の結果こそがメッセージとなりうるのです。
よく経営者は従業員に向かって「挑戦してほしい」と言います。
だが評価の場で高い点がつくのは、期初の目標を確実に達成した人であって、
失敗の記録がない、つまり挑戦をそれほどしなかった人たちなのではないでしょうか。
顧客志向を掲げながら、評価指標は売上のみで構成されています。
この状態で挑戦や顧客志向を求めるのは、価格表と違う金額を請求することに
等しいのではないでしょうか。
社員は掲げられた言葉ではなく、支払われる対価に反応します。
そしてこの反応は、道徳の問題ではありません。
組織で生き延びるための、正しい適応だといえます。
つまり評価制度とは、人事部門が管理する処遇の仕組みではありません。
組織の行動を形成する仕組みであって、経営から社員に発する最も強い信号です。
年に一度または二度の評価決定会議で経営者が下した判断は、
その後一年間、全社員の行動基準として機能し続けていきます。
設計はバックキャスト=逆算思考で行なう他ありません。
3年後に社内で増えていてほしい行動を、三つでよいので具体的に書き出していきます。
次に、その行動を実際に取った人物が、直近の評価と処遇でどう扱われたかを確認します。
両者が一致していなければ、増やしたい行動は増えてはいきません。
社内報でも、朝礼でも、研修でも増えてはいかない。
制度を動かさずに行動だけを変えようとする試みは、例外なく個人の熱意に依存することになり、決して続きはしません。
理念は壁に貼るものではなく、評価表の中に咀嚼され展開され書き込まれているものなのです。
そして最も雄弁に理念を語るのは、経営者の生のメッセージに加えて、次の昇進者の名前なのではないでしょうか。