働き方改革を進め、残業を減らし、休暇を取得しやすくし、福利厚生を整える。
いずれも必要な投資であり、怠れば人は集まってきません。ここに異論はありません。
問題は、それを競争力だと考えたときに起きてきます。
働きやすさは、環境の話です。そして環境は、模倣が容易であり、またコストがかかります。
競合他社が同じ制度を導入すれば、優位性はその日のうちに消えていきます。
しかも一度引き上げた水準を基本的には下げることはむずかしいので、費用だけが構造的に残っていきます。
働きやすさへの投資は、不満を減らすことはできても、動機を生み出すことはできません。
それは満たされて当然の条件であり、満たされたからといって、従業員が奮い立つ種類のものではないからです。
不満の解消と意欲の喚起は、別の回路で動いているのです。
一方、「働きたい」という感情は、意味の話です。
この会社やこの組織で何を成し遂げられるのか。どんな仕事を任されるのか。
数年後、自分はどう変わっているのか。自分はどう成長しているのか。
優秀な人材ほど、この問いに対する答えの明確さで会社を選んでいきます。
条件は比較検討の入口にすぎず、最後の判断は、任される仕事の大きさで決まります。
そして辞めるときも、同じ基準で判断されます。
したがって設計すべきは、制度の充実度ではなく、”ここで働く理由”ではないでしょうか。
自社でしか積めない経験は何か、
どの段階でどこまでの判断を任せていくのか、
3年在籍した社員は、どのような人材になっているのか・・
これらは制度表には書けないが、面接の場では確実に伝わっていきます。
語れる会社と語れない会社の差は、採用広告の巧拙よりはるかに大きいのではないでしょうか。
働きやすい会社は、辞める理由をなくしていく。
働きたい会社は、選ばれる理由をつくっていく。
両者は対立しませんが、選ばれる理由を持たないまま辞める理由だけを追いかけている企業・組織は、静かにしかし確実に高コストへと進んでいってしまうのではないでしょうか。