5年後に、転職市場で通用する社員を、貴社では何人育てているでしょうか

社員の希望を聞く。働き方を選べるようにする。異動の意向を尊重する。
人材を大切にする会社の姿として、広く受け入れられている像である。
そしてこれらは、確かに大切である。

ただし、それだけで構成された組織には、静かな副作用がある。
社員が居心地と引き換えに、市場価値を失っていく、ということです。

本人が望まない異動を避け続ければ、経験の幅を広げていくことはできにくくなります。
能力不足を指摘し本人が受けとめなければ、修正の機会が訪れることはありません。
負荷の高い仕事を回避してしまえば、その人は5年後10年後も同じ仕事しかできない人材となっていく。
そして事業環境が変わった時、最も困るのは実は本人であることを周囲の誰も教えてはくれない。

伝えなかったことは、優しさではなく放置であった、と考えるべきなのではないでしょうか。
その放置には、伝える側の負担を避けたいという動機が、しばしば混じっています。

本当に社員を大切にする、とは、”人材の市場価値を高める”ことではないでしょうか。
厳しい仕事を任せる、
できていないことを正面から時間をかけて伝える、
将来必要になる経験を本人がまだ望まないうちでも与える、
いずれも短期的には歓迎されないことでしょう。
もしかすると満足度調査のスコアは下がってしまうかもしれません。
しかしながら3年後5年後10年後に同じ質問を本人に再度問うのならば、答えは変わっていることが多いのではないでしょうか。

今いる社員を喜ばせることと、未来の社員をつくることは、しばしば短期的に衝突します。
どちらを優先するかによって、5年後10年度の組織はまったく違うものになります。
今いる社員を喜ばせることを選び続けた会社には、居心地はよいが動けない集団が残っていきます。
そして動けない集団ほど、環境の変化に対して驚くほど脆い。

そして皮肉なことに、どこの会社でも通用する人材ほど、この会社に残っていく。
他社でも通用すると自覚している人は、待遇ではなく、成長し続けられるかどうかで職場を選ぶからです。
囲い込みではなく、本人の能力を鍛える機会をつくり続けることが、結果として最も強い定着策になっていくことをお忘れではありませんか。