議題を説明し、意見を求め、誰も何も言わない。
そのまま決議に至り、会議は予定より早く終わる。
多くの経営者は、この状態を合意形成と受け取っています。
だが”沈黙”は同意ではありません。
それは、発言のコストが発言しないコストを上回っていることの、静かな表明です。
組織における異論とは、最も早く、最も安く手に入る経営情報です。
現場で起きている不具合、顧客の温度差、計画の無理筋・・。
それらは常に、決算書に現れるより先に、誰かの違和感として社内に存在しています。
その情報が上がってこないまま意思決定が行われるとき、会社・組織は最も高価な学習の仕方を選んでいるといえます。実際に損失が出るまで、誰も間違いに気づけない、という学習の仕方です。
”沈黙”には理由があります。
それは、かつて異論を述べた人間がその後どう扱われたか、という記憶です。
一回でも、反論した者が「後ろ向きだ」と評された、懸念を示した者がそのまま責任者にされた・・。組織はこうした出来事から、驚くほど速く、そして正確に学習します。
一度学習された沈黙は、担当者の異動を越えて長く受け継がれ組織文化となっていきます。
私たちはこれを、”沈黙のコスト”と呼んでいる。
厄介なのは、このコストが会計上どこにも計上されないことです。
失われた改善案、遅れた撤退判断、静かに辞めていった問題意識の高い人材。
いずれも「起きなかったこと」であるため、経営指標には載ってはきません。
そして載らないものは、管理されることはありません。
沈黙のコストは、支払われていないのではなく、誰にも気づかれないまま、毎日支払われ続けているのです。
経営者が点検すべきは、意思決定の速さではありません。
その決定に至るまでに、何件の反対意見が出て、それをすべて受け取り、そのうえで正面から向き合って対話したのか、です。
異論の出ない会社・組織は、実はまとまっているのではありません。
考えることをすでにやめている、と言ってよいのです。