「IT革命」が2000年に流行語大賞を取ってから20年余、今は革命後の世界ということになります。
革命ですから前の価値観はなくなっています。
実感するのは、インターネットやパソコン・スマートフォンが、日常生活さらにビジネスを進めていくうえで欠かせない社会のインフラとなったことです。しかも身近になったことでその存在を強く意識することが少なくなってきました。
企業活動においてもネットを使うことはほぼ日常であり、電子メールやクラウドサービス、電子ファイルでの資料作成や保管、ITシステムによる共通管理ツールの導入など、事業活動においても重要な役割を持っています。コロナ禍によって推進された、テレワークやリモート会議は、重要なコミュニケーションツールとなっています。
また、行政でもコロナ禍において顕在化した問題への対処として、様々な改革に政府も取り組みはじめ、行政手続きのデジタル対応など早くも取組まれている業務も出てきました。
政府の「デジタル社会の自実現に向けた改革の基本方針の概要」では「どのような社会を実現するか」について『 国民の幸福な生活の実現』『「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現』とともに、ビジネス界にも『 国際競争力の強化、持続的・健全な経済発展:民間のDX推進、多様なサービス・事業・就業機会の創出、規制の見直し』というメッセージが出されています。
この中にも使われていますが、DX(Digital transformation=デジタルトランスフォーメーション)という言葉が使われることが増えてきました。
そもそもDXとは何でしょうか。
DXとは、スウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念です。ストルターマン教授は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という主張しています。2004年のことです。かなり以前から言われていた考え方なのです。
日本におけるDXは、2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を取りまとめたことで、その言葉や意味が広がりはじめます。そしてコロナ禍によってビジネス環境が激変したことで加速をはじめました。経済産業省のガイドラインでは、DXをこう定義しています。
『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』
DXは、企業活動・事業の進め方について大きく変化させていく必要性を示しています。
データやデジタル技術というツールを‘有効’に利用して使っていくことを示しています。
本質は、単純に作業をデジタルに置き換えるというものではない、ということです。
例えば、外食業では様々な制約下において変革を余儀なくされる中で、デジタルツールを駆使している店舗・企業が増えています。これまでの、顧客は来店してくれて店内で食事やサービスなどを提供して対価を得るというビジネスから、来店だけではなく配達もおこないその注文もネットで行なう、ネットにおいて対価を払う方法として電子決済のみにする、さらに店舗という形態を持たずにビジネスを行なう、など、ビジネスのやり方そのものを大きく変化させています。
DXに取り組もうとする企業が多くなる中で、うまく推進できない、または一部の変更にとどまってしまうなどの事象も聞かれるようになりました。様々な事例を見ますといくつかの要因が見て取れます。
まず経営側にDXの目的が明確に理解できているかどうか、ということです。
世の中で言われているようだから当社も、という短絡的近視眼的な姿勢ではうまくいきません。ビジネスモデルの変革なのですから自社が今後どのようなビジネスをしていこうとするのか、そのために今のビジネスモデルではどうなのか、ということを充分に吟味検討する必要があります。理念やビジョンの咀嚼がされているかどうかが起点です。
また、ビジョン実現に向けて先行投資をするわけですから、効果をどうはかるのか、評価の基準は何か、についても経営による主体的な‘決め’が必要です。
次に、ビジネスモデルは全社で動かしていくものです。現在の自社の業務全体は、どのように進められているか、可視化できるレベルまで全容を表すことが必要です。
そのうえで、何をデジタルツールにするのか、することでどうなるのか、まで、現場からも情報を収集しての検討が必要です。最終的には、自社のそれぞれの組織はどのように関わり、結びついて、最終的に顧客にどのような価値を提供できているのか、ということが見えるところまで全容を棚卸しできている必要があります。
最後に人材への教育が進んでいることです。
DX推進に関わらず言えることですが、人材の育成・教育とは、企業のもっとも大きな資源をいかに増やしたか、ということです。
現在は激変期、定型業務が減っていく中で、仕事の中だけで人材を成長させるには限界があります。OJTが機能していない企業は大変な数にのぼります。
ここでの人材とは、デジタル技術に長けた人材のこともありますが、もっと重要なのはビジネスモデルを考え推進できる人材のことを指しています。ビジネスを理解し考えられるということです。
人材への教育=未来への投資です。
育成や教育を‘コスト’と言う経営者がいまだにおられますが、この思考は早々に改めるべきでしょう。そういった意識の経営では、目の前の利益や都合を優先し、自分たちが良ければいいという顧客無視の考え方がはびこりやすくなり、最後には、顧客はもちろん従業員さえもついてはきません。企業の未来を託されているのが経営者という立ち位置をあらためて理解いただくことが欠かせないと考えます。
さらに、現状多く見られるたて割り組織では、DXを推進しても、全社のビジネスモデルの再構築にはつながっていかなくなります。個別対応では全社の活動が連鎖しないからです。全社を俯瞰して、自社のビジネスの進め方はこうしていくのが良いのではないか、と思考し実行できる人材を育成していくには、どのような環境下にあっても育成・教育を続けていくことが大切な姿勢です。
DXへの取り組みは、未来への投資であり、自社のビジネスモデルの変革、自社人材の育成・教育、さらに顧客との関係性の深化をはかっていくきっかけになっていくのではないでしょうか。
「激変期は好機」と心得えていきませんか。